エッセイ

「装飾の力」展によせて

 色鍋島の精神と技術を継承する仕事のなかで、描いたところが白抜きになるという反転の発想に惹かれて取り掛かった「墨はじき」の技法。江戸期の「墨はじき」の技法を注意深くみていくうちにその中に隠された陰影・細部にも神経を遣う鍋島の品格に気づく。「墨はじき」の次の世界として白の微妙な雰囲気を求めた「雪花墨はじき」。梅の花の芯を「墨はじき」により表現することで現れた雪の結晶は、学生時代の自らのもの創りの原点の雪の日の夜の感動の記憶と年を経て結びつき、中谷宇吉郎博士の研究の羊歯状の結晶へ繋がる。工芸として日々の仕事を積み重ねるなかで見えてくる創造性を求め、江戸期から代々受け継がれる技術とともに、様々な繋がりの中に創作する自分がある。感謝の心を胸に積み重ねていく意義を実感する。
 現在の自分の仕事における文様・装飾について考えをめぐらせると、文様とは単なる飾るという意味ではなく、自然や社会に対する願いや祈りから生まれるのではないかと。「雪」は雪が多い年は豊作になり、「更紗」は代々続くことを願い、「桃」は長寿をしるすと同時に邪気を祓う果実であると伝えられる。豊かさを祈り、魔除けなど自然に対する畏怖・畏敬の念が基本にあるのではないかと。陶芸という自然の火や土や水に対し、従いそして生かすしかない色絵磁器の仕事を続けていくなかでその思いを強くするものである。

現代工芸への視点「装飾の力」2009.11.14-2010.1.31(東京国立近代美術館発行)より